2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。
2008年 環境生態センター(教育と研究より)



施設の概要及び特色

本センターは使用規程にもあるように環境生態領域の研究を円滑に遂行する為,関係設備及び機器を集中整備した施設である。
この施設は管理室,化学実験室Ⅰ,化学実験室Ⅱ,生態実験室,細菌培養室,血清疫学実験室,測定室,暗室,洗浄室から成り立っている。
実験室内の主な備品及び研究内容は以下の通りである。

管理室:パソコン(WinXP)等16種の機器が備えられている。
化学実験室Ⅰ:マイクロ冷却遠心機,DNAオーブン等9種の機器が備えられている。衛生学教室,医用中毒学教室,分子生物学教室,泌尿器科学教室,生化学教室が,環境中物質による自己寛容破綻の検討,ラジカルによる中毒発現機序に関する研究等を行っている。
化学実験室Ⅱ:セミドライエレクトロブロッター,多本架冷却遠心機等10種の機器が備えられている。微生物学教室,医用中毒学教室,分子生物学教室,泌尿器科学教室が,実験室診断に使えるC.trachomatis種特異抗原の検索,器官形成・再生における誘導シグナルの研究,ヒト精巣セミノーマ細胞におけるVEGF-Cに対する検討等を行っている。
生態実験室:O2/CO2マルチガスインキュベーター,クリーンベンチ等6種の機器が備えられている。生物学教室,生化学教室が,人獣共通感染症の疫学的研究と寄生虫症の免疫診断,寄生蠕虫類感染に伴う宿主免疫応答,寄生虫類の種内DNA多型性に関する研究を行っている。
細菌培養室:ケミルミイメージングシステム,バイオイメージングシステム,極微量分光光度計,電気泳動ゲル撮影装置等13種の機器が備えられている。衛生学教室,生化学教室,薬理学教室,公衆衛生学教室,医用中毒学教室,分子生物学教室,泌尿器科学教室,生物学教室が,生理活性物質の骨代謝に及ぼす影響,ポリアミンを指標とする担癌組織別制癌剤の選択の研究等を行っている。
血清疫学実験室:安全キャビネット,DNAオーブン等7種の機器が備えられている。内科学教室(呼吸器),小児科学教室(2)が,呼吸器感染症原因菌の定量と遺伝子解析,クラミジア・ニューモニエの迅速診断に関する検討等の研究を行っている。
暗室:撮影装置付蛍光顕微鏡,DNAフラグメント解析装置等14種の機器が備えられている。微生物学教室,内科学教室(呼吸器)が,寄生原虫類の蛍光抗体法による形態的研究,C.pneumoniaeの血清診断等を行っている。
測定室:大型マクロ写真装置,マイクロプレートリーダー等8種の機器が備えられている。微生物学教室,生物学教室,内科学教室(腎)が,寄生蠕虫・原虫類および宿主の形態観察等についての研究,Metabolic Syndromeにおける腎障害の機序解明等の研究を行っている。
洗浄室 : 純水/超純水製造システム,卓上型凍結乾燥機,DNAスピードバック等13種の機器が備えられている。
その他,検体保存スペースには,超低温フリーザー,メディカルフリーザー,振盪培養器等が備え付けられている。


2007年10月現在の利用者は,62名(16教室,1センター,短大)

○自己評価と反省

センター制度は本学において特徴付けられる研究環境のメリットとして捉えることは可能である。これは機器運用あるいはその利用にあたって職員一同が有用に学内の機器設備を使用できる利点が大きい。しかし,実際の実験を施行するに当たっては,研究に使用できる床面積の限界は如何ともし難い。当センターの場合,総面積の限界と小規模に区切られた実験室の環境を変更できないため,現状ではベンチの割り振りについて重大な問題は生じていないものの,パイロット実験室が,実際に充分な実験を行うには手狭な印象を拭えない以上,各センターのベンチの割り振りが,大学全体の研究業績の発展につながる基幹ともなる要因の一つにもなり,研究活性化が叫ばれ出してから既に何年か,絶対的な物理的なスペースの問題は,解決に関する妙案も乏しく,センター管理の立場からは常時,苦慮せざるを得ない問題として,大きいと感じる。
環境生態センターに関していえば,幸いにも利用者の良識により運営自体は良好に進められていると判断している。勿論,比較的大型の機器が搬入された上で,利用が乏しいような状況も認められはするが,現状では許容範囲と考えている。但し,実際に大学での教員職の役職名の変更とそれに伴う役職資格の問題,あるいは全国的な科学研究における競合的状況を踏まえると,制限された中での施設設備の有効利用という観点からは,充分な業績の下に,資金や環境面での優遇措置のような状況が逼迫してきていることも感じられる昨今であるので,利用者に於かれては,大学に所属する研究職である以上,研究成果を業績として公表し,その積み重ねの上で,更に大きな実績を構築していく姿勢でなければならないこと,充分に認識していただきたいと考える。

将来の改善方策

特に,研究スペースという面では,所謂成果主義を導入しなければならない時期にも来ていると感じられる。即ち,これまでの業績(論文と特許等),競争的資金の獲得状況などによっての研究スペースの再配分を行うということである。
また,使用についても,大学教員/研究職即ち利用者は,科学業績として国内外に周知される論文発表等を行うことにより,それぞれの研究が社会に還元されることをよく認識し,毎日のセンター利用が究極的にその目的のためになされており,論文発表が伴わない,いわんや学会発表さえもおぼつかないような状況であれば,占有研究スペースの削減などが致し方ないことを理解していただきたい。小説を読むことが好きな人が文学部の教員として日がな一日小説を読んで暮らしていてはいけない,それは趣味と自己満足だけの世界であるのと同様に,理科好きの少年が単に実験的な作業に携わって手を動かして自己満足に浸っていることに対して,医科大学の限られた財源や資産を供与するほど,昨今の医科学事情は裕福でも寛容でもないことを,利用者各位はしっかりと認識していただきたいと思う。そのようなことが,センター運営に関しても良好でかつ有機的な運営につながるものと信じている。